2007/01/21

新曲の音高システム







茂木さま,
昨夜からずっと今回の作品に用いる音高システムを考えていました。

私のブログにも今朝書きましたが,茂木さんの詩を読んで,今回は出来るだけ「機械」というものから遠ざかってみようと想うに至り,

また,先日の対談の中で,ジョン・ケージの作品《One-9》を言及したこともあって,そして何よりも茂木さんが書いて下さった「可能無限」というその宇宙観を表すために,プリミティヴな楽器である,雅楽器の「笙」のシステムを使ってみようと思い立ちました。

15本の竹からなる(実際は17本ですが,そのうちの2本は鳴りません)笙は,同時に複数の音が出せる管楽器として,世界的にも珍しい(他にはバグパイプぐらい)楽器です。

そのため,それら複数の音による差音と結合音からなる高次倍音が同時に響くため,あのような天空的(celestial)な響きを持っています。

実際の笙の音律による差音と結合音とによるその高次倍音については,笙奏者の宮田まゆみさん自身によって計算され発表(日本記号学会誌・記号学研究Vol.18)もされていまして,それは昨年1月に発表した《地平線のクオリア》にも一部使ったのですが,

その後,(ここからは少し楽理的な記述になってしまいますが)昨年の9月頃に,基音が長二度と完全五度のペアを2種選んで(LaとSi,RéとMi,笙の音名ではそれぞれ,「乞」と「一」,「几」と「乙」といいます)

それらの結合音の高次倍音列からハーモニック・ピッチを作ってオーケストレーションすると,面白いことができそうなことが解って,

そしてそこにそれらとは全く無縁の高次ハーモニックス項を持つ,Sol#(笙の音名では「美」といいます。いいでしょう!)を入れて山椒の小粒のようなテンションを与えます。

さらに,茂木さんの詩には,その天空的な「可能無限」のイメージの中に,我々の日常的な(いい言葉が浮かびません)地上性(terrestrial)も感じるのですね。

我々の「生」(la vie)における,これもひとつの(茂木さんが絶えず仰っている)偶有性(contingency)ではないかと思うのです。ひとつ前の投稿で時空の飛翔を感じると言ったのはそういうことです。

そしてその意図のために,先ほどの長二度と完全五度のペアのそれぞれの音程を反転(inverse)させたもう一組のペアを重ねています。

これは一種の複調(複数の調が同時進行する)ですが,基本に透明感のある五度の響きがあるために,かなり調性を感じさせる曲になると思います。

このブログを読んで下さっている読者のために,私の仕事部屋の雰囲気もお伝えしようと,自宅の写真を少々添えてみました。江村哲二

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